今月の法話

[0017] 善悪の報い (2007/04/24)


「善悪の報に三時あり、
一者順現報受、二者順次生受、三者順後次受、これを三時といふ、
仏祖の道を修習するには、其最初より斯三時の業報の理を効ひ験らむるなり、
爾あらざれば多く錯りて邪見に墜つるなり、
但邪見に墜つるのみに非ず、
悪道に墜ちて長時の苦を受く。」


 語句をそのまま解釈すれば、善悪の報いは三通りの現れかたがあるということです。これは善悪に限ったことではなく、全ての行為の結果の現れ方と受け止めても同様でありましょう。
 一つには、いま行ったことが即座に結果が現れる、二つには、いま行ったことが数時間・数日・数年後と時間の経過を要する結果がある、三つには、自分の死後何世代も後になって結果が現れるという因果関係を言っておられるのであります。

 よくテレビなどで先祖のたたりが災いしているなどと、脅迫的な因縁話をしている場面を見たり、聴いたりすることがありますが。ここに言われる因果歴然とか、業報ということはテレビなどで脅迫感をあおるような因縁話とは本質的に異なる、因果の道理を説かれていることを理解して頂かなくては誤解を招きます。

 この三時の業報の教えには、いろいろの捉え方があります。一日の内にも、朝つまずいて打ち身をした、痛い、あざが出来た、数時間後に腫れてきて歩行が苦しくなった、夜床に入って忘れていた打ち所が痛み出して寝られないという結果を招いて、あの時の一寸とした不注意が、などと後悔しても取り返しはつかないと言うことも。一月の内にも一年の内にも、一生の内にも因果の報いは、偽りようのない事実としてあるのです。人間の道を諦めて生きることは、昔から言われるところの、三時の業報の道理を「ならいあきらめて」人間の有り様を学ぶ用心を示唆されているのであります。

 「しかあらざれば 多く錯りて邪見に堕つるなり、但邪見に堕つるのみに非ず、悪道に堕ちて長時の苦をうく」といわれることは、人間の死んでいく先のことを言っておられるのではなく、祖先より授かったこの命は、精神や意識の持ち方によって善とも悪ともなる、人間の生き方の大事を言っておられるのです。私ごとで恐縮ですが、息子がこの人と結婚したいと言って、いま二児の母となっている嫁を初めて私達夫婦に紹介したときに、「貴女は食べ物に好き嫌いはありませんか」と尋ねたら、「はいあります、納豆が食べられません」と答えてくれました。私は「それはいけません、納豆という食べ物は日本の食文化を代表する物であるし、主婦が食に対する偏見があると一家の健康を損なうことになりかねないから、嫁にくるまでに食べられるようになって下さい」と言って結婚を受け入れたのです。

 我が家では冷蔵庫に納豆が無いという日は無いというくらいですから、嫁も大変だったことでしょう。結婚して間もなくアメリカへ渡り四〜五年たった頃、私がアメリカの息子宅を訪ねたとき、嫁が「お父さん私いま頃納豆が大好きになりました」と言ったとき、嫁も横山の人と成ったことを感じましたし、その後にアメリカで生まれ育った孫が九歳になって帰國した翌日の朝食に、「僕は何を食べる」と聞きますと、「みそ汁に納豆ご飯」と言ったときには、偏食を戒め常に健康的な食事をとることを家訓の如く躾てくれた、母の生き方が孫に伝わった喜びを感じました。

 一方で私の父方の祖母は二十八歳で五人の子供を抱えて寡婦となりました。子育てを始めお寺の護持に大変な苦労があったことでしょう、その為か師範学校の教師から小寺の住職の妻になった母とは折り合いが悪く、幼かった私の目から見ても厳しい嫁いびりの一面があったことを見ていました。

 母はよく辛抱して七人の子育てをし、いびられながらも祖母からの家伝を守っていたように思います。そのことから学んだことは、食生活を始め生活習慣を通して、祖先の祈りや子孫に伝えようとされた思いを、私に受け継ぎ、子孫へと伝える義務を感じます。これを、押しつけではなく自然に伝承して行くことを考えさせられました。そう思いますと私の生き方は、嫁や孫に素直に受け入れられる生き方を、自らに問わなければならないと心がけております。

 孫に祖先の祈りや思いを伝承するためには嫁が子育てに専念できる環境を作ってあげることが、祖父母の立場の私や妻の役割が如何に大切かを考える生き方に気づかされます。祖先と私と息子や孫が過去現在未来という三世が一体になる姿を思います。

 その今(現世)の己の生き方が問われ、この生き方の結果が、邪見に堕ち悪道に堕ち苦しみもするし。己の生き方に目覚めれば未来に安らぎを感ずることも出来るように思います。
 因果関係を科学的に実証する事は出来ませんが、信仰というものは、自分よがりになりがちな生き方を教えに照らし、教えを信じて疑わない純真さが大事であることを言っておられるように思います。

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